解析事例集(3)トランスモデル(方向性材の違い)
目次
1.解析モデルと目的
方向性材料を使ったトランスモデルをFig3.1.1に示す。トランスは三相三脚変圧器、方向性材を組合わせたモデルである。トランスでは交番磁束が基本になるので方向性材を利用するが、接合部付近では回転磁束が発生してしまう。その為解析によりどのような回転磁束が発生しているかを確認する。さらに、方向性電磁鋼板27P90と35G155の比較も行う。励磁コイルに電圧を入力し、最大磁束密度が1.0T程度になるように励磁。鋼材の板厚さが異なるので、積層枚数を変えて積厚さを同じにして、コイルの電圧条件等は同じものにした。
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Fig.3.1.1 モデル図
2.解析条件と計算時間
解析条件をFig.3.2.1に示す。鋼材の厚さが異なるため、積層枚数を変え積厚さを同一にした、従って同一の電圧条件を設定した。計算時間は約39min(IntelCorei5,28GHzマシン)、非線形のイタレーションが360回で収束した。メッシュ図をFig3.2.3に、リサージュ波形の評価点をFig3.2.4に示す。
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Fig.3.2.1 解析条件
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Fig.3.2.2 計算時間と収束回数
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Fig.3.2.3 メッシュ図
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Fig.3.2.4 リサージュ波形の評価点
3.磁束線、磁場分布、鉄損分布結果
磁束線図、最大磁束密度分布、最大磁界強度分布、鉄損分布をFig3.3.1、Fig3.3.2、Fig3.3.3、Fig3.3.4に示す。磁束線図では、方向性材の圧延方向に沿って磁束線が流れ、接合部で直角(急激に)曲がってい事が確認できる。磁束密度は磁路長の短い窓枠内側の部分が大きく、鋼材比較では35G155の方が大きい。磁界強度は上下鋼材と脚部鋼材のT型接合部の頂点付近に最大が出ている、鋼材比較では35G155の方が大きい。鉄損分布は、T型接合部が大きく次に窓枠部分が大きくなっている、T型接合部が大きいのは磁界強度が大きい影響、窓枠部が大きいのは磁束密度が大きい影響が出たためと考える。さらに鋼材比較では、35G155が大きく、総鉄損量は35G155が17%程度大きくなった。
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Fig.3.3.1 磁束線図 左:27P90 右:35G155 |
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Fig.3.3.2 最大磁束密度分布(最大0.94Tで表示) 左:27P90 右:35G155 |
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Fig.3.3.3 最大磁界強度分布(最大124A/mで表示) 左:27P90 右:35G155 |
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Fig.3.3.4 鉄損分布(最大0.4W/kgで表示) |
4.傾角θBと軸比α分布結果
傾角θbは圧延方向に対する交番磁束の反時計回りの角度で、回転磁束の場合は最大磁束密度の方向との角度である。傾角θB分布結果をFig3.4.1に示す。傾角θBは接合部付近で大きくなっている、これは接合部で磁束密度の方向が急激に変わる為で、完全に圧延方向に沿うことは出来ない為と考える。鋼材比較では35G155の方が大きく、最大角度は50度になっている。軸比αは回転磁束の長軸と短軸の比で、α=1は真円、α=0は交番磁束である。軸比α分布結果をFig3.4.2に示す。軸比αの最大はT型接合部頂点に出ていて、ここに回転磁束が発生している事がわかる。鋼材比較では分布はほぼ同じで、大きさが若干35G155の方が大きくなっている。
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Fig.3.4.1 傾角θB 左:27P90 最大28.5度 右:35G155 最大50.8度 |
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Fig.3.4.2 軸比α 左:27P90 最大0.33 右:35G155 最大0.38 |
5.X方向ヒステリシスカーブ結果
X方向ヒステリシスカーブの分布結果(正規化有り、正規化なし)をFig3.5.1、Fig3.5.2に示す。上部鋼材にX方向磁束が発生するので、X方向ヒステリシスカーブは上部鋼材で大きくなっている(正規化なしの図から)。その中の青丸の拡大図をFig3.5.3に、その部分に対応したDB値をFig3.5.4に示す。ヒステリシスカーブの35G155の方が寝ていて、ふくらみが大きい傾向が見られる。
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Fig.3.5.1 X方向ヒスカーブ(正規化) 左:27P90 右:35G155
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Fig.3.5.2 X方向ヒスカーブ(正規化なし) 左:27P90 右:35G155
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Fig.3.5.3 X方向ヒスカーブ拡大(青丸部) 左:27P90 右:35G155 |
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Fig.3.5.4 X方向ヒスカーブDB値(青丸部) 左:27P90 右:35G155 |
6.Y方向ヒステリシスカーブ結果
Y方向ヒステリシスカーブの分布結果(正規化有り、正規化なし)をFig3.6.1、Fig3.6.2に示す。脚部鋼材にY方向磁束が発生するので、Y方向ヒステリシスカーブは脚部鋼材で大きくなっている(正規化なしの図から)。その中の青丸の拡大図をFig3.6.3に。ヒステリシスカーブの傾きは35G155の方が若干立っており、ふくらみが小さい傾向が見られる。
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Fig.3.6.1 Y方向ヒスカーブ(正規化) 左:27P90 右:35G155
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Fig.3.6.2 Y方向ヒスカーブ(正規化なし) 左:27P90 右:35G155
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Fig.3.6.3 Y方向ヒスカーブ拡大(青丸部) 左:27P90 右:35G155 |
7.リサージュ波形結果
T型接合部付近の磁束密度及び磁界強度のリサージュ波形をFig3.7.1に示す。磁束密度ベクトル(赤)は、基本的に方向性材の圧延方向に向かう交番磁束になっているが、接合部付近で回転磁束が発生している事が確認できる。磁界強度ベクトル(青)は磁束密度ベクトルが交番磁束の場所でも回転磁界になっている傾向が確認できる。次にT型接合部頂点近傍の4点(ピンク、青、茶、緑丸)について詳細に確認する。ピンク丸部拡大図をFig3.7.2に示す。ここはT型接合部頂点で、磁場が左右方向に展開する場所で、大きな回転磁束(青)が確認できる。これに対して磁界強度はX方向に非常に扁平な回転磁界(緑)が発生している。これはこの部分での圧延方向がY方向の為、X方向の磁気抵抗が非常に大きい為である。青丸部拡大図をFig3.7.3に示す。この部分はY方向の交番磁束(青)が基本になる、鋼材比較では27P90の方が交番磁束の傾向が強く出ている。これに対して磁界強度(緑)はX方向に扁平な回転磁界になっていて、35G155の方が扁平率が大きくなった。茶丸部拡大図をFig3.7.4に示す。この部分は脚部頂点から来た磁場が左右方向に展開する場所である。磁束密度(青)はX方向に扁平な回転磁束になっている。磁界強度(緑)はY方向に扁平な回転磁界になってる、この部分の圧延方向がX方向の為Y方向の磁気抵抗が非常に大きい為である。緑丸部拡大図をFig3.7.5に示す。この部分はX方向の交番磁束が基本になる。磁束密度(青)はX方向に扁平な回転磁束、磁界強度(緑)はY方向に扁平な回転磁界が確認できる。
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Fig.3.7.1 リサージュ波形(赤:磁束密度、青:磁界強度)(正規化なし) 左:27P90 右:35G155
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Fig.3.7.2 ピンク丸部リサージュ波形拡大(青:磁束密度、緑:磁界強度) 左:27P90 右:35G155
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Fig.3.7.3 青丸部リサージュ波形拡大(青:磁束密度、緑:磁界強度) 左:27P90 右:35G155
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Fig.3.7.4 茶丸部リサージュ波形拡大(青:磁束密度、緑:磁界強度) 左:27P90 右:35G155
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Fig.3.7.5 緑丸部リサージュ波形拡大(青:磁束密度、緑:磁界強度) 左:27P90 右:35G155