解析事例集(4)SPMモータ(基本解析)

目次
  1. 解析モデルと目的
  2. 解析条件と計算時間
  3. 磁束線、磁場分布、鉄損分布結果
  4. 傾角θBと軸比α分布結果
  5. X方向ヒステリシスカーブ結果
  6. Y方向ヒステリシスカーブ結果
  7. リサージュ波形結果
  8. 電流波形結果
1.解析モデルと目的

SPM(表面磁石モータ)の鉄損分布を目的とした基本解析を行う。モデル図、寸法図をFig4.1.1、Fig4.1.2に示す。このモデルは電気学会の回転機:調査専門委員会ベンチマーク問題の一つ、番号R4,永久磁石電動機モデル(DCブラシレスモータ)(技法:第486号3章)を参照している。ステータコアは回転磁界が発生する為、無方向性電磁鋼板50A470でX方向を圧延方向に指定し、ベクトル磁気特性解析を適用する領域となる。ロータは回転磁界が発生しない為、ベクトル磁気特性解析が適用できない。この領域はS45Cとし通常のBHカーブを使った非線形解析を行う。励磁コイルに電圧を入力し、最大磁束密度が1.2T程度になるように励磁した。

トランスモデル

Fig.4.1.1 トランスモデル

寸法図

Fig.4.1.2 寸法図

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2.解析条件と計算時間

解析条件をFig.4.2.1に示す。メッシュモデルはスライド半径部分がステータ側とロータ側で分離されていて節点が2重になっている。対応する節点に周期境界条件を適用し結合する。ロータの回転はこの周期境界条件の対を回転方向にずらす事によって実現している。従ってスライド半径上の節点は等ピッチ角度で分割している。計算時間は約43min(IntelCorei5,28GHzマシン)、非線形のイタレーションが256回で収束した(Fig4.2.2)。メッシュ図をFig4.2.3、リサージュ波形の評価点をFig4.2.4に示す。

解析条件

Fig.4.2.1 解析条件

計算時間と収束回数

Fig.4.2.2 計算時間と収束回数

メッシュ図

Fig.4.2.3 メッシュ図

リサージュ波形の評価点

Fig.4.2.4 リサージュ波形の評価点

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3.磁束線、磁場分布、鉄損分布結果

磁束線図、最大磁束密度分布、最大磁界強度分布、鉄損分布をFig4.3.1からFig4.3.4に示す。磁束密度はティース部分および磁路の短い角部が大きくなっているが、周方向にはほぼ同程度になっている。磁界強度は上下領域のティース部分が大きく、圧延方向がX方向による影響が出ている。鉄損分布は、磁界強度の影響を受けて上下領域のティース部が大きくなっている。従来の鉄損式を使った方法では、磁束密度分布と同様に周方向に変化は見れないので、ベクトル磁気特性解析の効果を確認出来る。

磁束線図 最大磁束密度分布(最大1.212Tで表示)

Fig.4.3.1 磁束線図

Fig.4.3.2 最大磁束密度分布(最大1.212Tで表示)

最大磁界強度分布(最大179A/mで表示) 鉄損分布(最大1.802W/kgで表示)

Fig.4.3.3 最大磁界強度分布(最大179A/mで表示)

Fig.4.3.4 鉄損分布(最大1.802W/kgで表示)
総鉄損値は0.2601(W)

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4.傾角θBと軸比α分布結果

傾角θbは圧延方向に対する交番磁束の反時計回りの角度で、回転磁束の場合は最大磁束密度の方向との角度である。傾角θB分布結果をFig4.4.1に示す。傾角θBは上下ティース部および左右ティース部付け根付近で大きくなっている、これは磁束の流れと圧延方向の関係で理解できる。最大角度は約90度になっている。軸比αは回転磁束の長軸と短軸の比で、α=1は真円、α=0は交番磁束である。軸比α分布結果をFig4.4.2に示す。軸比αの最大は各ティース部の付け根で大きく、特に左右領域で大きいので、回転磁束は上下領域より左右領域の方が大きいことがわかる。

Fig.4.4.1 傾角θB 最大89.6度

Fig.4.4.2 軸比α 最大0.7

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5.X方向ヒステリシスカーブ結果

X方向ヒステリシスカーブの分布結果(正規化有り、正規化なし)をFig4.5.1、Fig4.5.2に示す。3時方向のティース部にX方向磁束が発生するので、X方向ヒステリシスカーブは大きくなっている(正規化なしの図から)。

Fig.4.5.1 X方向ヒスカーブ(正規化あり)

Fig.4.5.2 X方向ヒスカーブ(正規化なし)

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6.Y方向ヒステリシスカーブ結果

Y方向ヒステリシスカーブの分布結果(正規化有り、正規化なし)をFig4.6.1、Fig4.6.2に示す。0時方向のティース部にY方向磁束が発生するので、Y方向ヒステリシスカーブは大きくなっている(正規化なしの図から)。そのティース部の拡大図をFig4.6.3に示す。ヒステリシスカーブはティース部右側の方が面積が大きく、鉄損が大きくなっている(Fig4.6.4)。これはステータ側の作る回転磁界に対するロータ側の磁極の遅れ角(負荷角)を30度に設定している為、右側を通る磁束密度が大きくなる為と考える。

Fig.4.6.1 Y方向ヒスカーブ(正規化あり)

Fig.4.6.2 Y方向ヒスカーブ(正規化なし)

Fig.4.6.3 Y方向ヒスカーブ ティース部拡大(正規化あり)

Fig.4.6.4 鉄損分布

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7.リサージュ波形結果

磁束密度及び磁界強度のリサージュ波形(正規化有り、無し)をFig4.7.1、Fig4.7.2に示す。磁束密度ベクトル(赤)は、基本的に磁束の流れに沿った交番磁束または直角方向に少し膨らんだ回転磁束になっているが、ティース付け根部付近で回転磁束が発生している事が確認できる。磁界強度ベクトル(青)は磁束密度ベクトルに比べて大きな回転磁界になっている傾向が確認できる。次にティース付け根部分の拡大図をFig4.7.3からFig4.7.8に示す。この図では電気角の変化に伴う、磁束密度ベクトルと磁界強度ベクトルの変化を追っている。どちらも時計回りに回転しているが、磁束密度ベクトルと磁界強度ベクトルの開き角θBHは、電気角0度180度では小さく、120度300度で大きくと、電気角に応じて変化している。

Fig.4.7.1 リサージュ波形(正規化有り)

Fig.4.7.2 リサージュ波形(正規化なし)

Fig.4.7.3 リサージュベクトル拡大(電気角0度)

Fig.4.7.4 リサージュベクトル拡大(電気角60度)

Fig.4.7.5 リサージュベクトル拡大(電気角120度)

Fig.4.7.6 リサージュベクトル拡大(電気角180度)

Fig.4.7.7 リサージュベクトル拡大(電気角240度)

Fig.4.7.8 リサージュベクトル拡大(電気角300度)

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