解析事例集(5)IPMモータ(基本解析)

目次
  1. 解析モデルと目的
  2. 解析条件と計算時間
  3. 磁束線、磁場分布、鉄損分布結果
  4. 従来法との比較
  5. 傾角θBと軸比α分布結果
  6. ヒステリシスカーブ、リサージュ波形結果
1.解析モデルと目的

IPM(磁石埋め込みモータ)の鉄損分布を目的とした基本解析を行う。モデル図をFig5.1.1に示す。このモデルは電気学会の回転機:調査専門委員会ベンチマーク問題の一つ、番号R10,Dモデル(IPM)(技法:第776号5.2節、第855号7章)を参照している。ステータコアは回転磁界が発生する為、無方向性電磁鋼板50A470でX方向を圧延方向に指定し、ベクトル磁気特性解析を適用する領域となる。ロータは回転磁界が発生しない為、ベクトル磁気特性解析が適用できない。この領域はS17Cとし通常のBHカーブを使った非線形解析を行う。励磁コイルは電流源入力とした。 特にこの解析事例では従来法との結果比較を行った。すなわち、ステータコアは50A470のBHカーブを使用して、通常の非線形磁場解析を行った結果と比較している。この時従来法の解析は、弊社別ソフトμ-MFを使用した。

IPMモデル

Fig.5.1.1 IPMモデル

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2.解析条件と計算時間

解析条件をFig.5.2.1に示す。メッシュモデルはスライド半径部分がステータ側とロータ側で分離されていて節点が2重になっている。対応する節点に周期境界条件を適用し結合する。ロータの回転はこの周期境界条件の対を回転方向にずらす事によって実現している。従ってスライド半径上の節点は等ピッチ角度で分割している。計算時間は約87min(IntelCorei5,28GHzマシン)、非線形のイタレーションが75回で収束した(Fig5.2.2)。寸法図、メッシュ図をFig5.2.3からFig5.2.5に、リサージュ波形の評価点をFig5.2.6に示す。

解析条件

Fig.5.2.1 解析条件

計算時間と収束回数

Fig.5.2.2 計算時間と収束回数

ロータ寸法図

Fig.5.2.3 ロータ寸法図

ステータ寸法図

Fig.5.2.4 ステータ寸法図

メッシュ図

Fig.5.2.5 メッシュ図

リサージュ波形の評価点

Fig.5.2.6 リサージュ波形の評価点

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3.磁束線、磁場分布、鉄損分布結果

磁束線図、最大磁束密度分布、最大磁界強度分布、鉄損分布をFig5.3.1からFig5.3.4に示す。磁束密度はティース部分が大きくなっているが、周方向にはほぼ同程度になっている。磁界強度は上下領域のティース部分が大きく、圧延方向がX方向による影響が出ている。鉄損分布は、磁界強度の影響を受けて上下領域のティース部が大きくなっている。

磁束線図 最大磁束密度分布(最大1.5Tで表示)

Fig.5.3.1 磁束線図

Fig.5.3.2 最大磁束密度分布(最大1.5Tで表示)

最大磁界強度分布(最大900A/mで表示) 鉄損分布(最大1.1W/kgで表示)

Fig.5.3.3 最大磁界強度分布(最大900A/mで表示)

Fig.5.3.4 鉄損分布(最大1.1W/kgで表示)
総鉄損値は7.6e-3(W)

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4.従来法との比較

最大磁束密度、鉄損分布を比較した、左がE&S結果、右が従来法(conventional)結果である。解析条件を完全に一致させることができないので、ここでは傾向や分布の差異を見ている。 磁束密度の傾向はE&Sと従来法と同じである。従来法の磁界強度の結果はないが、BHカーブを使って計算している為、Bが同じならHも同じ大きさになり、磁界分布は磁束密度分布と同じ傾向になる。すなわち、周方向で差が無い。鉄損分布は、E&Sでは磁界強度の影響を受けて上下領域のティース部が大きくなっている。従来の鉄損式を使った方法では、磁束密度分布と同様に周方向に変化は見れないので、実際の鉄損分布を得ることができない(Fig5.4.6)。

最大磁束密度(E&S) 差が小さい 最大磁束密度(conventional)

Fig.5.4.1 最大磁束密度(E&S)

Fig.5.4.2 最大磁束密度(conventional)

最大磁界強度(E&S)

Fig.5.4.3 最大磁界強度(E&S)

鉄損(E&S) 差が大きい 鉄損

Fig.5.4.4 鉄損(E&S)

Fig.5.4.5 鉄損(conventional)

鉄損算出法の比較

Fig.5.4.6 鉄損算出法の比較

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5.傾角θBと軸比α分布結果

傾角θbは圧延方向に対する交番磁束の反時計回りの角度で、回転磁束の場合は最大磁束密度の方向との角度である。傾角θB分布結果をFig5.5.1に示す。傾角θBは上下ティース部および左右ティース部付け根付近で大きくなっている、これは磁束の流れと圧延方向の関係で理解できる。最大角度は約90度になっている。軸比αは回転磁束の長軸と短軸の比で、α=1は真円、α=0は交番磁束である。軸比α分布結果をFig5.5.2に示す。軸比αの最大は各ティース部の付け根で大きく、スロットの数が多いので上下領域と左右領域の差が小さいと思われる。

傾角θB 最大89.98度 軸比α 最大0.0.83

Fig.5.5.1 傾角θB 最大89.98度

Fig.5.5.2 軸比α 最大0.0.83

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6.ヒステリシスカーブ、リサージュ波形結果

ヒステリシスカーブの分布結果(X方向、Y方向)をFig5.6.1、Fig5.6.2に示す。またリサージュ波形をFig5.6.3に示す。ティースの付け根部分に回転磁束、回転磁界が発生している。

X方向ヒスカーブ Y方向ヒスカーブ

Fig.5.6.1 X方向ヒスカーブ(正規化あり)

Fig.5.6.2 Y方向ヒスカーブ(正規化あり)

リサージュ波形(正規化あり)

Fig.5.6.3 リサージュ波形(正規化あり)

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